ポポーの交配
2023 4 20 (art23-0538)
今年は、ポポーの木に多数の花がつきました。ポポーの花は、雄しべと雌しべの両方をもった両性花ですが、雌しべが成熟した後に、雄しべが成熟する雌性先熟です。"自花"受粉を避けることができます。花を遺伝子の組み合わせの多様性を高めている戦略とみれば、雌性先熟のように雄しべと雌しべの成熟期をずらして"自花"受粉を避けることは、その戦術の一つと言えます。しかし、結実に他の花を必要とするこの戦術は、果実を生産する行為、栽培にとっては、ちょっと、厄介です。交配を確実にするために人の手を煩わせることになります。交配(人工交配)が必要です。
ポポーの人工交配の実際:
早く咲いた花の花粉が成熟するのを待ちました。花粉が散ることを確認して、細い筆先に花粉を付けて、他の花の雌しべの先端を筆先でなでるようにして、花粉をつけました。交配作業済みの印として、花が付いている枝にカラー紐を結びました。
昨年は2個の果実しかとれませんでした。今年は、10個の果実をとりたいと考えています。その為には、着果数を確保する必要があります。それには、多数の花を咲かせること、そして、人工交配を成功させること、です。前者は達成です。して、後者はどうでしょうか。花弁が散ると成否が分かりますから、しばらく様子を見ることになります。
ところで、交配と言えば、この辺りはナシ(二十世紀)の産地で、春には交配作業があります。子供の頃交配作業をやりました。
ナシは、自らの花粉では結実しない自家不和合性という性質があります。これも、遺伝子多様性を担保する戦術の一つと言えます。着果の為には、他品種の花粉による人工交配が必要になります。
子供の頃のナシの交配は、竹の筒に花粉/葯を入れて、首からぶら下げ、竹の筒に絵画用の筆を突っ込んでは筆先に花粉をつけて、花をなでるように動かして、花粉をつけていきます。ナシの花は、ひとところに数個の花をつける散房花序ですから、花の群に筆先を、パッパッパ動かして全ての花に花粉を付けます。着果後、指先大に生長したら摘果し、形のよい幼果だけを残します。
筆先に適量の花粉を付ける難しさはありますが、個々の花の交配作業に難しい点はありません。子供でもできます。しかし、一つだけ、やっかいなことがあります。全ての花に筆で触れる必要があります。枝が複雑に伸びていますから、うっかりすると、どこまでやったのか分からなくなります。やってないところは、着果しませんから、大事です。迷った場合は、もう一度やりなおすことになります。これが何度も起こるようになると嫌になります。よくしたもので、そうなった頃に声が掛かりました。「もう止めて、花を取りなさい」と。
当時、人工交配用の花粉は、ナシ品種、長十郎の花から取っていました。長十郎の木は、二十世紀のような、地面に平行に這わせた棚仕立てにすることはなく、自然に育っていましたから、枝が大きく張った背の高い木でした。花摘み作業は、脚立に乗ったり、木に登って行う必要がありました。木登りは子供の特技です。大きく開いた花ではなく、咲きかけの花/蕾を摘み取るだけですから、子供にもできます。この作業にも飽きる頃には、おおむね帰る時刻になっていました。