今日も、"ようこそ"      

今日も、"ようこそ"

定年退職後、横浜市から湯梨浜町(鳥取県)に転居しました。 ここには、両親が建てた古い家が残っています。 徒歩5分で東郷池, 自転車15分で日本海です。 また、はわい温泉の温水が各家庭まで届き、自宅温泉を楽しめます。 ブログでも始めようかと、HPを立ち上げました。最近始めた木工工作と古くなった家のリフォームの様子を、田舎の日常に織り交ぜながら、お伝え出来ればと思います。

本『都市の樹木433』

2019 07 18 (art19-0154)
これを書いている部屋の入口近くの本棚に “山と渓谷” の樹木図鑑『樹木1』『樹木2』が並んでいます。学生の頃、樹木の名前でも覚えようかなと思いたち、書店で買った図鑑です。何回か開かれただけで、あまり活用されていません。

もう一冊、樹木図鑑があります。岩崎哲也著『都市の樹木433』(文一総合出版)です。こちらは、ポケットサイズの図鑑で、京都に住んでいた数年前、神社仏閣巡りの際に携行するために購入しました。何度か持ち歩いて、本をめくっていたのですが、ある日、一つの樹木の解説文に “おやっ” と思わせる箇所がありました。それは、マツ科トウヒ属の常緑針葉樹の一つ、プンゲンストウヒの解説文です。

【プンゲンストウヒ】葉の気孔線その他に白いワックス質の粉をふき、青白くみえて美しい。このワックス質は、こすると脱落し、緑色の地色が現れる。戸建住宅、再開発地区、公園などに植えられ、樹高は普通4~15m。高木性や矮性などの品種があり、夏の夜間の暑さに弱い。 葉をつぶすと、サンショウにも似た強い針葉樹の香りがある人目を忍んで小枝を盗むと、青臭い錯乱しそうな匂いが周辺に漂い、小脇のバックに入れておくと動くたびに強烈である

下線の箇所:“葉をつぶすと、云々” の記述は、図鑑の解説文としてはとてもユニークです。前述の図鑑「樹木1」「樹木2」にはありません。これは、自分の五感をふるに使って樹木を感取してほしいとの著者の思いから出てきたものでしょう。その為に、葉をちぎったり・つぶしたり、枝を折ったり、皮を剥いだり、果実を齧ったり・食べたりしているようです。その類の試行の結果と感想を記述した箇所が、この図鑑では随所にあります。また、“毛” の様子をていねいに観察しているらしく詳細な記述が多々あります。

太字の箇所:小枝を折ったときに発生する匂いの強烈さを分かってほしいとの著者の思いが伝わってきます。しかし、人目を忍んで盗んだ小枝でも、持ち主に断って手に入れた小枝でも、折ると強烈な匂いを発するでしょうから、あえて、小枝を盗む必要はなさそうです。とすれば、これは、なんなのでしょうか。実際に小枝を盗んだのでしょうか。小枝を小脇のバックに入れたようですので、やはり、盗んで持ち帰ったのでしょう。事実はどうであれ、「ひとこと多い」記述と言えそうです。

この種の本で「ひとこと多い」と言えば、三省堂の『新明解国語辞典』を思い出します。20年程前に、赤瀬川源平の解説本『新解さんの謎』(文芸春秋、1996年)が出版され、この辞典の語釈や用例の特殊な面白さがちょっとしたブームになりました。凡夫も、その解説本を購入し目を通した記憶があります。この度、探してみたのですが、ここの本棚には見当たりません。おそらく、横浜の家(今は娘が使っています)の書棚にあるのでしょう。そちらには、20年間の製薬会社勤務時代に読んだ本が保管されています。

あらためて『都市の樹木433』に目を通しますと、「ちょと変な、ひとこと多い」記述が結構みつかります。いくつか、紹介しましょう。解説文の調子が分かるように全文を引用し、「ちょと変な、ひとこと多い」箇所を太字にしました。

【ヤマハゼ】毛が多い。樹高は普通5~8mで、高いものは10mを超え、20mに達するものもある。都市公園などでハゼノキと同じように植えられており、自生のものもみられる。暖帯の都市ではハゼノキほど美しく紅葉せず、すす病に罹りやすい。枝を切ると師部から液がにじみ、乾くと黒くなる。ひどくかぶれる人がいるらしいが、葉に触れたり、枝を折り千切ってこすっても、かぶれたことはない。葉をもむと繊維が若干強く、青いトマトのような香気がある。秋の落葉は、比較的早い。

【サンシュユ】樹高は普通2~5m程度、長命で成長は遅く、老木でも6~10mほどだが、ときに15mになる。まだ寒さが残る春めくころ、ハクモクレンと同時か少し早く、樹冠全体が黄色になるぼどに咲いてきれい。葉をちぎると網脈の繊維が納豆のように糸を引き、青ずっぱい匂いがある。果実はみずみずしく、晩秋に果柄ごと赤く熟す。落下しても、はつ恋の人の小指のような透光性があり、無意識に口に入る。甘い気もするが、かなり酸味が強い

【ユスラウメ】庭、公園や街路に植えられている。樹高は普通1.5~5m程度。幹はあまり太くならず頼りない。花は一重の白色ときに淡い紅を引き、柄が極めて短く、雄しべは長くない。果実は初夏、透明感のある赤色に熟す。美味しいが、熟すとともに鳥に先に食べられてしまい、積年の恨みがある。果柄はごく短く、若い果実はニワウメほどとがらず、熟すころ、むしろ先端は凹む。果実が白く熟す品種がある。一年枝は茶褐色で、淡色の短毛が密生しているが老眼でも見え、手触りがやさしい。

【ザクロ】赤い一重花のものをザクロまたはミザクロと呼んでいる。果実が大きいものや小さいもの、甘いものや酸味が強いものなどの品種がある。樹高は普通2~5mで、あまりおおきくならない。葉をもむと、枝豆のような弱い匂いがある。果実が熟して割れた様子は、見てはいけないものを見たような雰囲気があり、数々の迷信や奇伝を呼ぶ。鬼子母神神話から人肉の味がするといわれるが、私には分からない。ビワなどとともに、家人のうめき声を聞いてよろこぶという

【イチジク】樹高は普通2~4m、高いものは8m程度になる。日本では主に江戸時代または明治以降に伝わったとされているもの2系統がある。果実の比較的ちいさな甘酸っぱい品種が庶民に身近なイチジクだが、現在は改良が進み甘くて大実の品種や、果実が黒色や白色に近い品種も流通している。寿命が比較的短く、樹形が乱暴で枝が横に張るため、都市では近年少なく、イチジク浣腸のほうが身近かもしれない。小枝を切ると、真冬でも、水分の多い乳液が恥ずかしいくらいしたたり落ちる。

【ヤマモモ】暖地産の常緑樹で、公園や庭、街路に多く植栽される。果樹として多くの品種がり、庭木として流通している。高度成長期の後半、都市緑化の必要性が叫ばれる中、クスノキなどとともに多用されてきた。 落葉は邪魔で嫌い、冬も緑が欲しい、果実がたべられるなど、都市人のエゴイスティックな選択の結果である。樹高は普通5~10m、大木は関東地方南部以西にあり20mになる。近年、次第に大きく育ち、枝葉が密生して暗く、雌株の落果が歩道を汚すなど、嫌う人が少なくない。

【シラカバ】短命で、80~100年が限界といわれる。樹高は普通5~15m、高いものは温帯にあって25mを超える。暖帯の都市では成長が悪く、白く優しい樹皮は黒ずむか灰褐色になって美しくならない。近年、外国産や園芸種の流通が増えており、幹が細くて白く、暖地にも適するとされるが、照り返しや虫害に弱く都市への適性は低い。シラカバは、高原や冷涼地にあってこそ美しい樹木の代表である。暖地に高原の風情を求めて植栽するのは不憫であるし、その人の利己主義を植え育てているように思える

最後の2つは、著者の考えが思わず出てしまったようです。樹木は、本来あるべき場所(生態系)で生育することが望ましいと考えているようです。人の勝手な都合で、移植させられる樹木の身になってみろと。
 
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