読解力
2019 12 05(art19-0194)
前回、生きていく上で、勉強はかかせないことを書きました。学校では誰かに教わりながら勉強していた多くの人が、学校を出てしまうと誰かに教わる機会を失います。従って、学校を出てからの勉強は、もっぱら自学自習になります。自学自習はテキストを読み理解することから始まります。所謂、読解です。読解と言っても、小説や評論、哲学書を読んで、行間に隠れている本当の意味・意図を読み解くような高度な読解ではなく、単に、テキストに書かれていることをそのまま理解する基礎的な読解です。この読解力は自学自習には必須です。読解力の話で思い出すのは、新井紀子著の「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」 (2018) です。筆者は、国立情報研の「AI東大ロボくん」開発プロジェクトのディレクターです。AIに文章の意味を理解する読解力をつけることを目指してプロジェクトを牽引する中で、実際の大学生が数学の問題を解けないことが気になり、大学1年生を対象に「大学生数学基本調査」を実施したそうです。それによって浮上してきたものはちょっと衝撃的だったとか。簡単な数学の問題が解けないのは、そもそも問題文が理解できていないのではないのかという疑問。
そこで、基礎的読解力を調査するために、RST(Leading Skill Test)を開発し、小中高生にRSTを実施し調査を進めているそうです。問題は、係り受け、照応、同義分判定、推論、イメージ同定、具体例同定(辞書)、具体例同定(数学)の7区分の問題。どの程度の問題であるかが分かるように末尾に、著書に紹介されている問題例を挙げておきます。単に文章を理解すれば解ける問題です。
さて、調査の結果ですが、結論から言えば、中学生の半数は中学校の教科書が読めていない状況にあるそうです。掲載されているデータをみると、高校生もそうですから、中高生の状況といっても過言ではありません。
AIでも正解が出せる「係り受け」と「照応」の問題は解けるのですが、AIが手も足もでないそれ以外の問題は、正解率が半減します。AIは文章の意味を理解できません。読解できません。「係り受け」と「照応」問題の答は、文を理解している訳ではなく、単に、単語の出現頻度を統計的処理して正解を予想しているだけです。
基礎的読解力を有する人がこの程度だとすると自学自習のできる人は意外に少ないと考えざるを得ません。誰でも出来るものと思っていましたが、そうではなさようです。
読解力に関し、4日付けの新聞に興味深い記事が載りました。[2018年に実施した国際学習到達度調査(PISA:Programme for International Student Assessmen)結果を公表した。PISAは3年ごとに、世界79カ国・地域の15歳を対象にして行われている。日本では、無作為に抽出した183校の高校生1年生6109人が参加した。義務教育終了段階の子供を対象に、読解力と数学的応用力、科学的応用力を測るものである。それによると、「読解力」が前回(2015)の8位から15位に低下した。また、数学的応用力も5位から6位と、科学的応用力も2位から6位に順位を落とした。2006年の低下は所謂「ゆとり教育」によるものであると説明されたが、今回の低下の要因は、特定できないとのこと]
読解力を決定しているものはまだ見つかってないと新井氏は著書で述べています。興味深いのは、読書習慣、得意科目、スマフォ使用時間、学習時間など、読解力と関係ありそうですが、有意な相関性は見出されなかったとのことです。しかし、調査結果から、読解力は中学では向上しているが、高校では向上しないことは明らかだそうです。中学までの読解力が、一生を決定するのでしょう。高校しかり、大学しかり、その後の実社会しかり。