新型コロナウイルス感染症対策(3)
2020 08 06 (art20-0261)
再生産数(reproduction number)は、ある集団において1人の感染者が何人の非感染者(感受性保持者)にうつすかを表したものです。これには、基本再生産数(Ro、basic reproduction number)、実効再生産数(Rt/Re、effective reproduction number)があります。Ro は、非感染者だけの集団に1人の感染者を入れた時、何人にうつすかを表したものです。 “感染拡大の初期状態“、あるいは “何もしない状態” での再生産数になります。
一方、Rt は、感染者、非感染者(感受性保持者)、回復者(免疫保持者)が混在した集団の中で、感染者1人が何人の非感染者にうつすかを表します。感染防止の社会的活動も加味した、謂わば、感染対策下の再生産数になります。Rt 値が 1.0 より高ければ感染は拡大へ、1.0 より低ければ感染は収束に向かいます。Rt の変動は、感染防止施策の効果を反映します。
基本再生産数 Ro は病原体に固有の値で、感染力とみることができます。WHO の資料では、新コロの Ro は 1.4-2.5 と計算されています。飛沫による感染拡大ですから、不特定多数の人にうつすものではありません。インフルエンザと同程度です。一方、みずぼうそうや麻疹などのRo は高く、水疱瘡は 8-10、麻疹は 12-18 です。これらは、空気感染しますので、不特定多数の人にうつします。
新コロの Ro の値 1.4-2.5 は WHO の資料によるものですが、他のチームが計算した Ro は少し高くなっています。香港チームの計算では 3.3-5.5、英国チームの計算では 3.6-4.0 です。現在、新コロウイルスの系統は複数存在すると言われていますから、系統によって Ro/感染力が異なるのでしょう。現在流行しているウイルスは欧州型で、最初の武漢型より感染力が強くなっている可能性があります。
さて、SIRモデルは単純な感染モデルで、集団をS(非感染者、感受性保持者)、I(感染者)、R(免疫保持者、回復者)に区分し、各区分の経時変動を予測します。SIRモデルの中で、基本再生産数 Ro の位置づけはどうなっているのでしょう。
SIRモデルで感染率を β とし、回復率を γ とすると、S, I, Rの関係は以下のようになります。
S ------>I------>R
βSI γI
また、式で書くと、以下のようになります。
dS(t)/dt = -βS(t)I(t) (1)
dI(t)/dt = βS(t)I(t) – γI(t) (2)
dR(t)/dt = γI(t) (3)
ここで、β:感染率、 γ:回復率、です
初期状態S(t)=1, I(t)=R(t)=0において式(2)を線形化すると、
dI(t)/dt = βI(t) – γI(t) = (β – ϒ)I(t)
感染拡大はdI(t)/dt > 0 であり、これはβ > ϒのときです。書き換えると、
β/ ϒ > 1
となります。今、Ro を
Ro = β/ ϒ
とおけば、"Ro >1" のとき感染拡大、"Ro <1" のとき感染縮小となります。Roは基本再生産数と呼ばれています。