本「疫病」
2020 09 07 (art20-0270)
台風10号が対馬(島)付近を通過中で、時折風が強くなります(現時刻 8:10)。先ほど日課の畑の見回りを行い、野菜や果樹の様子を見てきました。かなり風に煽られていましたが、倒伏や枝が折れることはなさそうです。幸い南風なので、隣接する民家が盾となって防いでくれます。予報では、この南風、昼過ぎにはもうすこし強く (10-12m/s) なるそうです。さて、本題です。安倍総理が、持病の潰瘍性大腸炎の調子が悪いようで、辞意を表明しました。7年8ヶ月に及ぶ歴代最長政権が終わります。新総理の選出は17日だそうです。菅官房長官、安倍政権の後継者と自他ともに認められている人、が最有力候補のようです。
新型コロナウイルス感染症の第2波が一段落し、やれやれと言ったところです。ところで第1波の時、政府の打ち出す感染症対策が、何かズレていると感じました。現場や人心から乖離した施策だなーと。どうなっているのかと舞台裏が気になっていました。そんな中、門田隆将著の「疫病」(産経新聞、2020年)を読む機会がありました。門田氏はジャーナリストだそうです。新型コロナウイルス感染症という “疫病” を巡るすべての出来事の舞台裏を覗かせてくれました。さもありなんと納得できそうな箇所が至る所にありました。緊急事態を前にして、緊急の意味を解さず、通常の行動規範に従って対処しようとする人、不確かな情報に振り回されて判断・決定を行う人、なんと多いことか。そうしたやり方の不毛性を理解せず、判断の誤りに気付くことなく、ただただ、愚策の山を築いていく。この国は大丈夫でしょうかな。新型コロナウイルスの感染力がそれほど強くなかったことは、本当に、幸いでした。
この本「疫病」は、一応、ノンフィクションに分類されているようです。ノンフィクションは、過去の出来事(事実)に基づいて創作した作品のことです。ノンフィクションと言えども創作ですから、著者の立ち位置や書き方によって、読者の受ける印象が変わります。特に、ある事件にかかわっている多数の事柄のなかからどの事柄を選び、どのように関連させるかによって、その事実のもつ意味や解釈が変わります。そうした関連事項の取捨選択が著者に委ねられていることを忘れてはなりません。都合のよいものを選び取ることは人の常ですから。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2, なお疾病名はCOVID-19)は、2019年11月に中国の武漢で発生が確認され、12月31日に最初にWHOに報告されたそうです(ウィキペディアより)。武漢から新型コロナウイルス感染症が広がったのですが、このウイルスの宿主動物が武漢に棲息していないことから、ウイルスは外部から武漢へ持ち込まれたとして、その経路がアレコレ話題になりました。このあたりは、本の「武漢病毒研究所」なる章に詳しく書かれています。
更に、この章では、ウイルスの人為的操作の可能性にも言及し、ノーベル生理学者のLuc Montagnier 博士の発言(4月18日付)を取り上げています。いわく、[新型コロナウイルスは自然なルートで発生したものではない。ウイルスが何の目的で作られたものかは知らないが、これは武漢の研究室で人口的に操作されたものだ」と。この発言の根拠は、SARS-CoV-2の配列のなかに、HIVの配列が存在すると結論付けた Jean-clude Perez博士との共著論文(COVID-19, SARS and Bats Coronaviruses GenomesUnexpected Exogeneous RNA Sequences)であると。そうか、SARS-CoV-2は、自然に発生したウイルスではなく、武漢の研究所で人為的に作られたウイルスだったのかと、読者は思い込むでしょう。話を劇的にすれば読者は喜びます。しかし、この種の本では、周辺の状況も合わせて載せるべきだと思います。
Montagnier博士の発言の根拠となった論文の内容、特に解析方法、そして結果の解釈には、多数の研究者から疑問視する声が上がったようです。そもそも、3月17日付けの Nature Medicineで、SARS-CoV-2と関連ウイルスのゲノム配列を比較解析した結果、このウイルスが実験室で作成されたり、その他の工学的手段で作成された証拠は存在せず、自然起源であることが報告されています。
この頃は、ちょっとしたデータをWeb上に公開する手段がすすんでいるようで、Montagnier博士の発言の翌日の19日、Philippe Lacoude の European Scientistに Philippe Lacoude によるちょっとした配列データ解析が載りました。これは、 Montagnier博士の発言の根拠となる配列解析を自分でやった一例です。解析方法は、SARS-CoV-2とHIVの配列をNCBIのデータベースから取り出して、BLASTを用いて配列間の相同性を解析するというものです。NCBIの配列データは公開されています。また、BLASTはNIHで開発されたもので、誰でも使用できます。ここで用いられた方法は、分子生物学をちょっとかじった人ならば、誰にでもできる程度のものです。解析の結論は、”The SARS-CoV-2 is likely a product of nature, born out of Darwinian selection.” ということでした。