あんどんの色
2021 6 10 (art21-0349)
この辺りの農家は、野菜苗を植え付けた後、あんどんを立てます。あんどんは、肥料袋の底を抜いて筒状にし、4本の支柱で箱型に立てたものです。風よけや保温効果があり、生育が促進されると言われています。有り合わせの肥料袋で作っている農家が多く、畑地に立っているあんどんはとてもカラフルです。凡夫も、あんどんを立てて、野菜苗を保護します。今年も、例年通り、黄色と薄い緑色の肥料袋製のアンドンを立てましたが、毎回、ちょっとした疑念に捕らわれます。あんどんの色はどんな色でもよいのだろうか、と。
植物は光合成により産生した炭水化物(ブドウ糖やデンプン)をエネルギー源として、根から取り込んだ物質(養分)から、体に必要なアミノ酸/蛋白質や脂肪、ビタミンなどをつくることで生長します。光合成の産物、炭水化物は、光エネルギーを使って二酸化炭素と水からつくりだされます。このとき、光エネルギーは葉緑素(クロロフィル)に補足され、電子エネルギーに変換された後、生合成反応に利用されます。
クロロフィル (chlorohyll) は、450nm付近の青色光と、660nm付近の赤色光を吸収しますが、500-600nmの緑や黄色の光を吸収しません。光合成速度は、光の波長に依存的で、クロロフィルに吸収される青色光と赤色光で高くなり、吸収されない緑や黄色の光では低くなります。光合成の作用スペクトル(action spectrum)の高低は、クロロフィルの吸収スペクトル(absorption spectrum)に対応しています。
肥料袋は低密度ポリエチレンのフィルムでてきています。このフィルムは、ツルツルしていて透明性があり、防湿性や耐衝撃性に優れていると言われています。透明な肥料袋もありますが、多くは、いろいろな色に着色して使われています。
さて、緑色のフィルムは、緑色以外の光を吸収します。従って、フィルムに当たって反射した光は、緑以外の光が失われるため、緑色になります。これが、フイルムが緑色に見える理由です。また緑色のフィルムを透過した光も、緑以外の光が吸い取られるので、緑色になります。
緑色の肥料袋であんどんを作った場合、緑色以外の光(クロロフィルが利用できる青色や赤色の光を含む)がフィルムに吸収されてしまうため、光合成速度を高めることができません。一方、赤色の肥料袋では、赤色以外の光が吸収されてしまい、フィルムの透過光も反射光も赤色となります。赤色はクロロフィルに吸収されますから、光合成速度を高めることができます。
こう考えると、あんどんは、クロロフィルで吸収される青色や赤色で作ったほうが、よいことが分かります。しかし、薄い着色フィルムの光吸収は ”ある程度” のものであり、赤色フィルムといえども、赤色以外の光を完全に吸収することはありません。従って、色の話は、”どちからと言えば云々の話” です。また、無着色の透明フィルムと較べると、着色フィルムの光透過率は全体的に低下しますから、赤色フィルムといえども、赤色の透過光強度も弱くなります。
どんな色のあんどんでもよいのか? 色にこだわるならば、あんどんの色は赤色系統がよさそうです。しかし、色にこだわらないのであれば、色のない透明なフィルムであんどんをつくって、自然光が、できるだけそのまま、野菜苗に届くようにすれば、苗の生長にはベターであると思われます。ただ、そうすると、あんどんのカラフルさが失われ、目を引く畑の風物が一つ失われることになりそうです。