本『君は誤解している』
2021 11 11 (art21-0388)
先日、ずっと気になっていた家の外壁ペンキの塗り直しを終え、気が楽になりました。本でも読もうと、本棚をあさり、一冊の本を手にしました。佐藤正午の「君は誤解している」(岩波書店、2000年刊)です。競輪を題材にした短編集です。6つの話から構成されています。競輪にのめり込む主人公と取り巻き連中の話です。のめり方は6人6様で、いずれの話も面白く読めます。巻末の付録に、競輪になじみのない読者のために、競輪用語が解説されています。これを読んでから本文へ向かうと、競輪レースの文章が具体的なイメージとして把捉できます。そのせいなのか、競技としての競輪もいくらか分かるようになります。
車券を買って ”とった” ” とられた” の一喜一憂だけでなく、競輪レースの展開を予想することも、おもしろい世界のようです。もっとも、予想が的中したから、”とった” と言えるのですが。それでも、予想すること自体に楽しみをみいだす人は、この本の主人公達だけではないと思われます。
競輪予想は出場選手9人のラインを予想することから始まるようです。
ここで、ラインとは:競輪選手は先頭を走る先行型とその後ろをマークする追い込み型に分かれます。9人の選手が出場するレースにおいて、先行型選手が3人いる場合、追い込み型の選手は、たいてい先行型選手に2人づつついて、「先行型‐追い込み型‐追い込み型」の並びが3つできるそうです。この並びをラインと呼び、この並びの各選手は順に、自力、番手、3番手と呼ばれています。1番手、2番手、3番手と呼べば、素人でも分かりやすいのですが、1番手は自力、2番手は番手と呼ばれます。
先行型1人、追い込み型2人しか出ない場合、追い込み型2人の順番(番手か3番手)をどうするか迷いますが、それでも、順列は2通りしかありませんから、選手の強弱と特徴から、なんとか順番を予想できそうです。しかし、3人の先行型選手と6人の追い込み型選手が出場するレースとなると、9人の並びは4320通りありますから、予想するのは大変です。
しかし、ラインの組み方は、基本的に同じ地区の選手がチームを組む傾向があり、また、レース直前に行われる選手紹介で、実際に組まれるライン同士で走ることが決まっているので、そこで、確認できるそうです。
レースでは、選手がラインを組んで整然と並んでゆっくり周回しますが、それは最後の1周半(ジャンが鳴る)までで、それ以降は速度が上がり、個人戦になります。特に、最終周回の4コーナーからの直線は、デッドヒートとなり順序が激しく入れ替わります。駆け引きの極みです。競輪の決まり手(1着2着に入った選手が最終周回でとった戦法)には、「逃げ」「捲り」「差し」「マーク」の4種類があるそうです。
ライン読みと並行して、ゴール直前の駆け引きを予想することが必要です。これは、簡単なことではなさそうです。選手固有の特性や能力だけでなく、その日の心身のコンディションや戦法、更に天候なども考慮して、総合判断することになります。
こう考えると、とても的中する予想ができるとは思えません。この本の主人公のように競輪の読み力や予想能力を授けられたほんの一部の人を別にすれば、競輪に興じている大多数の人はできたと思っている、否、思い込んでいるだけでしょう。実際のところ、サイコロを振って着順を決めているのと五十歩百歩です。主催者とその取り巻き連中は、予想ができる、あるいは、できていると思わせて、おおいに車券を買わせたいのでしょうが。
もっとも、この予想ができそうでできないところに競輪の一つの魅力があるだろうとは思いますが、・・・。