本「植物忌」
2022 1 17 (art22-0407)
久しぶりに本屋に行きました。田舎の本屋には、都会の本屋(ジュンク堂、紀伊国屋、丸善)のように多種多様な人が利用している訳ではありませんから、おもに、売れ筋の本が並ぶことになります。そのため、どの本屋を廻っても、同じ本を見かけます。そんな田舎の本屋で、タイトルに興味を引かれて1冊の本を購入しました。星野智幸の「植物忌」(朝日出版、2021年刊)です。10の短編からなります。

植物と人間が融合したり、人間が植物に身体を乗っ取られたりと、読んでいてとても変な感覚に陥る本です。この感覚は、学術上の植物と人間の隔たりを度外視して話が展開することへの違和感から生じているようです。ついていけないなーと辟易しながら、同時に、この先どうなるのだろうと興味津津で、読み続けることになります。
植物転換手術を受けて、"植物人間" になろうとした“ホシノ”氏。"植物人間" は、植物特有の能力を生体工学技術を用いて組み込むことによって、全身のあらゆる部位が自己再生可能になる人体です。しかし、”ホシノ” 氏は、転換手術による人体改造に失敗し、人体の一部を取り込んだ植物、"人間植物"、になってしまう。("ぜんまいどおし" より)
桜が満開状態の近所の空き地へでかけた蜜也と私。大勢の人の声が聞こえる。その声は、桜の花びらが震えて発する声であり、無数の花のおしゃべりである。大勢の人に取りかもまれているようで居心地が良くなった2人は、花びらを舞い上げて遊んでいると蜜也の姿が無くなる。翌日、空き地へ行ってみると小さな桜の株が目に留まる。桜化した蜜矢の姿であった。拡げた両腕と足元は桜の木と一体化している。うなだれた首の先に、蜜也の顔がある。
そのうち、顔が膨れてピンク色の巨大な玉となり、ぽんと弾けて花が開く。そして、花びらが落ちると実が付く。実は完熟して黄金色になる。食べてみると甘く、メロンとモモとマンゴーを合わせてような味がする。実を食べ尽くし、実の中にあった種も呑み込んでしまう。数日後、私の体から、桜が芽吹く。脇の下や首の付け根、足の指の間、肘の内側などから、緑の芽が出ている。そのうち、根がでてくるのだろう。いつの日か、私も、どこかへ出かけて、そこで、根付くことになるのだろう。そして、地球上の人間がすべて桜の木に変わる日をまつことになる。(”桜源郷” より)