本「戦前の怪談」
2023 2 23 (art23-0522)
田中貢太郎の「戦前の怪談」(河出書房、2018刊)を読みました。著者は、伝記作家であり、怪談文芸の大家と言われています。明治13年(1880)に高知県で生まれ、昭和16年(1941)に60歳で亡くなっています。この本は著者が書いた数多くの実話怪談のなかから優れものを24話おさめたものです。本は2018年の出版ですから、凡夫が、ここ湯梨浜町に移住してから購入したようです。覚えがないのですが、たぶん、倉吉の今井書店で購入したのでしょう。いつか読もうと本棚に並べたまま、すっかり忘れていました。先日、本でも読もうかと、本棚をあさった時、目に留まりました。
怪談集といっても、"怖い" ではなく、"怪しい" ほうですから、定番の、狸や狐の化身話や幽霊話が数多くあります。もっとも、化身も幽霊も、ドロドロしたものではなく、あっさりしています。以前紹介した「耳袋」(art20-0294) に収録されている話を彷彿させます。
なかには、つつましい幽霊も登場します。
幼い子供を残して妻が病死したので、亭主は後妻を貰う。しばらくすると、夜な夜な、寝床に若い女が現れて、後妻に向かってお辞儀をする。後妻は怖くてしかたがない。話を聞いた亭主は、現場に立ち会い、女に向かって、言う。「おい、お前は、子供もこんなに可愛がって貰っていながら、何の不足があっていつもいつもやってくるんだ」と。女は、「私はお礼にあがっております」と答える。亭主は、わかったから、もう来るなと諭す。女は二度と現れなかった。[藍微塵の着物]。
毛並みの異なる話もあります。気味の悪い話なども。一押しは、[蟇の血]です。
ふとした縁で知り合った若い女と素人屋の2階で同棲することになった青年、高等文官の受験生。女のことで先輩の家へ相談に行った帰り、とある女と道連れになる。素人屋で自分の帰りを待っている女が気がかりであったが、女に請われるままに、女の姉が住むと言う家に上がり込んでしまう。そこで、奇怪なことを目にする。慄いて、必死に家から逃げ帰ろうとすが、それもままならず。そして、・・・・。
視覚化すればおもしろいだろうと思い、ネットで検索したところ、映画やドラマはみあたらなかったのですが、漫画になっていました。”近藤ようこ” の「蟇の血」です。