田植えの記憶(2)
2024 7 11 (art24-0666)
前回の続きです。凡夫の地区の田植えは、後方へ移動しながら苗を植えていきますから、腰をあげる度に、自分の植えた苗や足跡(穴ぼこ)を目にすることになります。大人が植えた苗の列(条)はまっすぐで、足跡は条間にピッタリはまっています。一方、子供のものは、条がぐにゃぐにゃで、足跡もバラバラです。後ろに下がりながら植えていきますから、自分の足でつくった穴ぼこに田植え紐の赤玉が当たると、気が焦ります。苗を植える前に、泥を寄せて穴ぼこを埋めなければなりません。これは一手間かけることになりますから、その分、遅れがでます、と同時に疲れます。
小さな子供には大人のような等間隔の足運びができません。それでも、中学生になると、それなりにできるようになりました。その頃には、よその家の田植えを手伝うこともありました。ちょっとした小遣い稼ぎになりました。
田植え作業は、腰にきます。腰を折って前かがみの姿勢で苗を植えますから、しばらくすると、腰が痛くなります。途中、何度も、反り返っては腰を伸ばすことになります。ところが、大人は年季がはいっているせいかあまり腰が痛くならないように見えました。どうしてなのかと観察すると、大人の動作は子供の動作と違います。子供は前かがみの姿勢を保ったまま、腕を左右に伸ばして苗を植えています。一方、大人は、前かがみの姿勢を大きく上下させます。腕を伸ばして苗を植える動作と連動して体がリズミカルに上下します。腰を折って/延ばしてを繰り返すことで、腰への負荷を軽減させているようです。中学生になると、このリズミカルな動きができるようになり、腰の痛みがひどくなることはなくなりました。
1枚(1反)の田圃は20mx50mで、縦長です。田植えの開始早々、後ろを振り向くと、ゴールは50m先、はるか彼方で、子供心に、終わるのだろうかと、不安になります。植えても植えてもゴールが近くなりません。しかし、不思議なもので、半分を過ぎると、振り向くたびに、ゴールがぐんぐん近くに見えました。
家族に手伝いの親戚と近隣の人が加わり、総勢10人強で、午前に1枚、午後に1枚か1枚半の田圃の田植えを終えました。当時、両親は6枚分の田圃を所有していましたから、我が家の田植え作業は3日ほどかかりました。
田植えにまつわる行事。
小学校の運動場の前は一面田圃でした。その田圃の1つを使って田植え実習がありました。凡夫は家の田植えを手伝っていましたから、誰よりも早く植えることができるだろうとの思いがありました。ところが、実際やってみると、凡夫より早く植える児童が1人いました。その児童も農家の子供で、田植えの手伝いをさんざんやっていたのでしょう。ショックでしたが、子供心に、上には上がいるものだ、と思い知りました。