今日も、"ようこそ"      

今日も、"ようこそ"

定年退職後、横浜市から湯梨浜町(鳥取県)に転居しました。 ここには、両親が建てた古い家が残っています。 徒歩5分で東郷池, 自転車15分で日本海です。 また、はわい温泉の温水が各家庭まで届き、自宅温泉を楽しめます。 ブログでも始めようかと、HPを立ち上げました。最近始めた木工工作と古くなった家のリフォームの様子を、田舎の日常に織り交ぜながら、お伝え出来ればと思います。

たそがれ清兵衛

2024 10 21 (art24-0693)
山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」(2002年11月公開)を、ビデオに録画し、何度もみています。何度観てもおもしろい映画はそうそうありませんが、この映画はその一つです。部屋で録画ビデオを観ていると、家内が「また観ている」とからかい気味に言います。

この映画の何がおもしろいのか。ストーリーはとても単純で、地方の小藩のわずか50石取りの下級武士の清兵衛は、妻に先立たれ、幼い2人の娘と老いた母親を養っています。時折訪ねてくれる幼なじみの女性への恋心に苦しんでいる中、上意討ちを藩から命じられ、不本意ながら引き受けることになります。

最近、この映画を取り上げている本に出会いました。鶴見俊輔と関川夏央の共著本「日本人は何を捨ててきたのか」(筑摩書房、2011年刊)です。副題は思想家・鶴見俊輔の肉声。鶴見氏と関川氏の対談です。関川氏は漫画「坊ちゃんの時代」の原作者です。作画の方は谷口ジローです。「坊ちゃんの時代」は夏目漱石を中心に明治の文学者や世相を描いたもので、おもしろい漫画です。

本の中で、鶴見氏が映画「たそがれ清兵衛」を観に行かれたということで、関川氏も観に行ったそうです。行ってみると、映画館の雰囲気が通常と異なり、おじいさんとおばあさんが多くの席を占めていたそうです。
鶴見氏は、映画は藤沢周平の文学をよく伝えていると、言っています。

藤沢周平はどういう作家かというと、自分の暮らしの中に残像を保ち続けて、その上に何かを築こうとする人である、と言っています。しかも、男だけに残像があるという考えから放たれている、とも。残像の文学である、と。

藤沢文学の特性がどうであれ、映画をおもしろく観ることができるのは、原作の文学性云々と言うより映画の脚本と構成のうまさにあるように思われます。加えて俳優の演技力です。清兵衛を演ずる真田広之の、そして、朋江を演ずる宮沢の、そして善右衛門を演ずる田中泯のそれです。いずれもはまり役です。家族を愛する誠実な清兵衛の役は、企画の最初から真田広之に決まっていたそうです。

ある切迫した状況に追い詰められた人が、一つの苦渋の決断をする経緯は、感動を誘うものです。同時に、己ならどうする、己にはできるのかできないのか、と問われます。ともあれ、暗い状況のなかで、一抹の、しかし明るい灯火を見ることになります。

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