本『夢辞典』
2024 11 4 (art24-0697)
横浜から届いた本を納める場所をつくろうと、書棚の本を整理していると、一冊の本に目が留まりました。深沢七郎の「夢辞典」(文芸春秋、1987)です。昭和62年の第二刷版ですから、20代半ばに手に入れた本のようですが、すっかり忘れていました。整理の手を休めて、読みました。深沢七郎は、姥捨て山をテーマにした『楢山節考』を書いた人です。『楢山節考』は二度映画化されています。緒形拳が長男役を演じた、二度目の映画をTV放映で観た記憶があります。重い映画でした。
『夢辞典』は、本の ”あとがき” にもあるように、70歳前後に週刊誌に書いた随筆をまとめたものです。内容から、70歳前から72歳までに書き記した文章と読み取れます。筆者は、1914年生まれで、1987年73歳で亡くなっていますから、72歳は亡くなる前年です。文中にも記述されていますが、筆者は心臓病を長いこと患っていたようです。
随筆は34の見出しで構成されていますが、老いついての項目は一つだけです。それは、オラガボケ(インキョ目ネハン科)です。
ところで、この随筆の見出しタイトルの付け方がちょっと変わっているので、ついつい読んでしまいます。例えば、カミシンジン(シュウカン目ケイシキ科)、キセカエニンギョウ(ケッコン目ヒロエン科)、シアワセサソイ(シソウ目シュウキョウ科)、ゼイタクビョウ(リュウコウ目ヨクボウ科)、テレビホウドウカン(マスコミ目テレビ科)、プレゼント<オシツケ目マトハズレ科>等です。( )内の**目**科から内容を思い描けます。
さて、オラガボケ(インキョ目ネハン科)の書き出しは、”70歳をすぎて、まもなく71歳になろうとしている”、です。そして、老人であると自信がもてるようになったので、”老人だから、面倒なことはしなくてもいいだろう。自分勝手に暮らしてもいいだろうと私はきめてしまった”、と続きます。そして、隠居生活に入って、シャバと一線を画して、のんきなその日、その日を過ごしている。畑で野菜を作り、庭で草をむしり、盆栽に手を入れて、ギターを弾いて暮らしている。
隠居、心地よい響きなのですが、今日、隠居するのはなかなか難しそうです。
早くに祖父を無くした祖母は、1人で子供達を育て上げると、早々に家の一切を父と母にまかせて、身を引きました。隠居です。凡夫が子供の頃、祖母は、毎日のように、知り合いの家へ出かけていました。そこでは、数人の祖母と同年代と思しきおば(あ)さんが、投網などの漁網を編みながら雑談していました。当時は、母屋の端や別棟に、隠居部屋が設けられていました。そこで、隠居人は、母屋の忙しさに気兼ねすることなく、一日を気ままに過ごすことができたようです。
ところで、編針は竹製で、何度となく、編針の作製を頼まれました。網目の大きさに合わせて編針を変えるので、いろいろなサイズの編針を作りました。ちょっとした小遣い稼ぎになりました。