本『人生航路』
2024 11 14 (art24-0700)
書棚に眠っている古い本があります。その一つ、クローニンの『人生航路』(竹内道之助訳、三笠書房、1961)。クローニン(A. J. Cronin)はスコットランドの作家です。本の原題はGrand Canaryで1933年の作品です。邦題として、『人生航路』の外に、『大カナリヤ航路』と付けられています。上下2冊-本です。どんな経緯で、書棚に並べられたのか分かりませんが、読んでみました。どうも、一度も読んだことのない本のようです。
バナナ船といわれる貨物汽船(オーリオラ丸)に乗り合わせた8人の船客が、イギリスのリバプールからカナリア諸島への航海中に、関係性を築いていきます。主人公はハーヴァー・リースで、曰く付きの医者。2人の有閑婦人(メリー・フィールディングとエリサ・ベーナム)と付き人のデーンズ・ディプディン。宣教師兄妹(ロバート・トランターとスーザン・トランター)。プラトンを愛読する元ボクシング選手のジミー・コーコラン。淫売宿の太っちょのばあさんエライザ・ヘミングウェイ。
医者のハーヴァーとメリーの間に生まれた恋心。宣教師のロバートとエリザの肉欲的な恋愛、そして、ロバートの妹スーザンのハーヴァーへの一方向の恋情を軸に、話は、サロン・ドラマ風に展開します。これに、一癖も二癖もある人物、コーコランやヘミングウェイばあさんが絡んで、てんこ盛りのメロドラマです。ただ、ハーヴァーとメリーの恋は、プラトニック的で、ハラハラさせます。メリーが黄熱病に感染し、危篤状態になります。医者としてのハーヴァーの献身的な治療行為の結末はいかに・・・、と、よくある話と分かっていても、一気に読ませてくれました。
カナリア諸島は、常春の島と呼ばれていますが、この物語でも、いろいろな花が随所にでてきます。物語の終わりにも。
イギリスの自分の家に帰ったハーヴァーは、思い出になってしまったメリーのことを思っています。そこに、誰かが訪ねて来た気配を感じます。物音に続いて、芳香が漂ってきます。物語は「それは、フリージアの花の芳香だった・・・」、で終わります。