今日も、"ようこそ"      

今日も、"ようこそ"

定年退職後、横浜市から湯梨浜町(鳥取県)に転居しました。 ここには、両親が建てた古い家が残っています。 徒歩5分で東郷池, 自転車15分で日本海です。 また、はわい温泉の温水が各家庭まで届き、自宅温泉を楽しめます。 ブログでも始めようかと、HPを立ち上げました。最近始めた木工工作と古くなった家のリフォームの様子を、田舎の日常に織り交ぜながら、お伝え出来ればと思います。

研究生活-熊本

2020 02 24 (art20-0214)
生命研 (東京都町田市所在) の特研員(ポスドク)として研究三昧の生活を過ごしていました。そして、数ヶ月後に2年間の契約満期を控えたある日、ベテラン研究員のGさんから、熊本に一緒に行かないかと誘われました。Gさんは、長く務めていた生命研を辞めて、熊本の大学へ教授として赴任することになっていました。Gさんは、典型的な自分でやりたがる研究人間でした。この誘いの前に、秋田の大学の先生からもこちらに来ないかと誘われていましたので、どちらにしたものか迷いました。しかし、選択は簡単に決まり (art20-0213)、家内と2人で町田から熊本へ行くことになりました。

大学近くの2階建てアパートの1階の物件を借りました。3DK (3 部屋と台所・キッチン)で2人で住むには十分の広さでした。凡夫の書斎用に1部屋をあてることができました。そのうち、娘が生まれ、住人が増えましたが、まだ広さは十分でした。毎日、このアパートから歩いて大学へ通いました。

大学での最初の仕事は研究室の開設です。新たな研究室ですが、数名の卒研生(4年生で卒業研究を行う学生)の入室が告知されていました。大学からの開設準備資金を使って、分子生物学実験に必要な試薬や消耗品、そして器具を購入しました。加えて、ホワイトボードなどの教材も整えました。物品の購入にあたり業者との値引き交渉はおおいに楽しめました。分かったことは、消耗品等などは一度に大量に購入すれば驚くほど安値になるということです。研究室の片隅に机を置いて、凡夫の居場所としました。

春休みが終わり、卒研生が入室した翌日、G先生は研究室の紹介と研究内容の説明を行い、卒研生に研究テーマを与えました。テーマは、G先生が発見し長年解析してきた “線状プラスミド” に関するものです。卒研生はテーマにそって実験を行い、実験結果を出します。実験結果をもとにG先生と話し合い、次のやるべき実験を計画し、実験を遂行します。これの繰り返しです。実験は一度でなく、何度も繰り返します。また、やり直しの実験も多々あります。助手である凡夫の仕事は卒研生に実験のねらいや実際の手技を教えることです。右も左も分からない学生に教えるにはひたすら忍耐を要しました。町田の生命研では凡夫が教えられ、ここでは凡夫が教えています、ちょっと、くすぐったいような気分でした。

卒研生は、最初は、G先生の指示に従って実験を行っていますが、段々、自分で考え、自分なりの実験を行うようになります。それ自体は歓迎すべきことですが、予定にない実験は費用がかさんで、研究室の運営をまかされた者としてはたまりません。大学から支給される研究費のみで初年度は運営せざるを得ませんから、たいへんです。業者に頼み込んで後払いで納品してもらったことは何度もあります。どうしようもないときは、学生には気の毒でしたが、ちょっとごまかして実験を止めさせたこともあります。
大学院生の時、教室運営の大変さを理解したつもりでしたが、現場では、そんなことはなんの足しにもなりません。研究費の乏しい研究室を運営する大変さを味わいました。翌年になると、外部の研究費がいくらか入ってきましたから状況はよくなるはずでしたが、卒研生の数が増え、院生も加わり、研究費欠乏状態自体はそれほど緩和されませんでした。

研究室の運営には苦労しましたが、学生がいるとそれなりに楽しく過ごせました。特に最初の年の卒研生は、個性豊かな学生がそろい、おもしろおかしく過ごすことができました。翌年になり、学生の面倒をみながら自分の研究に本腰をいれたかったのですが、そうもいきませんでした。時間の方は夕食を済ませて研究室に戻ることで何とかなりますが、研究費欠乏はどうしようもありませんでした。学生の卒研実験が優先しますから、研究費はそちらに回さざるを得ず、凡夫が実験に使えるお金はほとんど残りません。また、凡夫自身のここでの研究成果が乏しく、個人的に科研費を取ることもできませんでした。それでも、2年間は、試薬をケチったり、消耗品を洗浄して再利用したりして何とかほそぼそとやっていましたが、3年目を終える頃になると転職を考えるようになりました。どこかに、試薬や消耗品に煩されることなく実験の出来る所はないのかと。結局、4年目の夏に、ちょっとした縁があり、退職し、家族3人で渡米しました。

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